Run x Climb = Fun!!

登って走ってスピードハイク

スピードハイクのルート探しとプランニング(4)

ルート探しの話の続きです。

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(写真はクラシックなクライミングルート、前穂高岳の北尾根。クライミングそのものの難易度は初級レベルではありますが、アプローチや山頂に飛び出すところなど、クラシック・ルートの名に恥じない名ルートです。)

 スピードハイクの機動力によってコースタイムを圧縮することで、より長いルートを快適に踏破できる…と考えた時に、実際にどのくらいの長さのルートを検討すればよいのか、ということを考えてみます。

教科書的な山登りでは、1日の行動時間は早朝から行動できる縦走中で8時間、交通機関も含めたアプローチに時間がかかる日帰りで6時間と設定するのが一般的です。これは、遅くとも4時までに行動を終了することを目標として、1時間のマージンを見て、7時から行動できるとして9時間、9時から行動できるとして6時間…と考えると妥当な数字と言えそうです。

スピードハイクに関して言えば、不慣れなうちはちょっと長めの日帰りコース(コースタイム6-8時間程度)に挑戦してみて、どのくらいの余裕を持って行動できるかを試してみて、少しずつ長いコースに挑戦していくのがよさそうです。

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長いコースを歩く(走る)ためには、できるだけ早いうちから行動を開始し、効率的な行動を心がける必要があります。特にパーティーでの行動の場合、リーダーがタイムキーパーになってペースを作り、パーティーが最大限のパフォーマンスを出せるように行動することができなければ行程は伸びません。単独行に関してそういった難しさはありませんが、自分の体力を鑑みつつ、ペースを作ったり休憩をしたりする難しさは同じです。

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また、どのくらい長い行動時間の山登りを経験したことがあるか、ということも行動能力を計る大事な指標です。行動中は少なからず緊張していますし、ザックも背負っているので、いくらゆっくり行動していたとしても確実に体力は奪われていきます。疲れてくればペースは落ちますし、判断力も鈍ります。タフな山登りであればあるほど行動時間が短い方が疲労が減りますが、その限界がどのあたりにあるかを知っているかどうかは個人の経験として大いに役立ちます。

山での行動では、一人一人が最も歩きやすいペースで歩くのが、その本人にとって最も効率の良い行動となります。パーティーの中で一人だけ遅い人がいた場合、その人にあわせたのんびりペースにすることは、他のメンバー全員が「歩きやすい」ペースよりも落とす必要が生まれますし(ペース調整が必要になって疲れる)、必要以上に行動時間が伸びることによっても無駄な疲れが発生します。逆に、遅い人にとって速過ぎるペースで突っ込んだ場合、途中まではよいペースで行動できるかもしれませんが、バテによる急ブレーキで結果的に高いツケを払うことになります。「足が揃ったパーティー」という表現がありますが、これは各メンバーにとって「よいペース」のスウィートスポットが重なっている理想的な状態のことを指します。単純に健脚揃いということではなく、全員が歩きやすいペースで行動できるとパーティー登山でのペースを安定化するため、計り知れないメリットがある、ということなのだと思います。

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著者に関して言えば、最も長かった行動時間の登山は山岳部のOBと一緒に登った静岡の大無限山(日帰り)で、これは約20時間ほど行動しました(コースタイム12時間)。これは典型的なスローペースがスローペースを呼ぶ行動で、終盤は真っ暗な山道をヘッドランプでフラフラになりながら下っていったことを思い出します。疲れて余裕がなくなってくると、体は動かなくなるし、精神的にもネガティブになるし…ということがよく分かりました。

今のところ、スピードハイク的なアプローチでの最長行動時間は8時間(コースタイム16時間弱)です。次は、20時間のコースを10時間でやっつけることを目標としています。

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連続行動ではありませんが、クライミング中の事故によって劔岳の八つ峰の五・六のコル付近でビヴァークした経験も、自分にとってはよい糧となっています。その日の行動時間は12時間を越えていて、ルートミスによって懸垂下降した壁を雨の中登り返したり…というタフな条件の中、薄暗くなってきたところで最後の壁のトラヴァース中に一人が滑落し、張っていたフィックスロープを固定していた岩も剥がれてロープに巻き込まれる形で二人が7-8mほどのシェルンドに落下してしまいました。最悪の事態は免れたものの、行動不能に陥ってその場でツェルトを張ってザイルをお尻に敷いて体育座りで一晩を過ごすことになり、ペラペラの生地1枚のツェルトの重要性や、心の栄養剤としてのウィスキーの有り難さを知った気がします。

トレイルラン的なアプローチの山登りでは体力面が強調されがちな印象がありますが、山との関わりあい方が直接的になればなるほど、山での経験が重要になってくる、そんな風に思います。