Run x Climb = Fun!!

登って走ってスピードハイク

スピードハイクのルート探しとプランニング(3)

スピードハイクのルートを考える話の続きです。

f:id:pastel:20100925112934j:plain

山登りでは、登りが遅かったり、下りが苦手だったり、階段が嫌いだったり、がれ場で極端にペースが落ちたり…と、人によって得意・不得意とする場面が大きく変わってきます。

パーティー登山では、その時々のボトルネックを把握しながらパーティーの歩き方を最適化して行くスキルがリーダーに求められますが、スピードハイクでも考えるべきポイントは同じです。

一般論として、技術的要素の少ない登りや平地区間は体力次第であるのに対し、下りや足場の悪い区間は登山経験の蓄積がものをいいます。山登りは、足場を選んで、適切な足の置き方をして、体重をかけて…という行為の繰り返しです。これは登りでも下りでも同じで、足を置いて体重をかけた時に滑るか滑らないか、どのように体重をかければスムーズで効率的に次のステップに繋げられるか…というスキルは習うよりも慣れろで、数をこなしていく中で経験として身につけていくものです。

特に違いが生まれやすいのが下りで、ラン出身で圧倒的に登りや平坦が速い人たちと一緒に山を歩いていると、相対的に下りが遅いなと感じることがありますが、これは山を歩く体力と比較して、相対的に登山経験が不足していることによるものでしょう。山慣れした人の下りに後ろからついていって、ステップの踏み方を真似してみるのが手っ取り早い上達方法です。

**

では、スピードハイクでの下りのペースはどのくらいの数値が想定すればよいでしょうか?

f:id:pastel:20150505090136p:plain

経験的に言って、ある程度歩きやすい下り(斜度が緩すぎず、足場が悪すぎない)を経験豊富なパーティーが行く場合、15m/minあたりが「よいペース」と言えると思います(=900m/h)。一般的には1時間あたり400-500m下るペースでコースタイムが設定されていることが多いようなので、概ね50%程度の圧縮率を見込める…ということになります。

**

体力や技術によって、登りと下りで50%程度の行程の圧縮が見込めることは分かりました。これに加えて、トレイルラン・スタイルで「走り」を取り入れることができるスピードハイクで最もコースタイムを圧縮できる可能性があるのは、平坦基調の区間です。

分かりやすい例として、上高地槍ヶ岳方面にアプローチする際に歩く梓川沿いのルートを考えてみます。山地図でのコースタイムは、以下の通り。

  • 明神-徳沢@3.0km = 60分
  • 徳沢-横尾@3.6km = 70分

…ということで、この地図での歩きやすい平坦区間は約時速3kmのペースでコースタイムが設定されていることが分かります。これは他の一般登山道の平坦区間に関してもほぼ同様で、ランのペースに直すとキロ20分ペース…と考えると、登山行動における平坦区間のペースがいかにゆっくり目に設定されているかが分かると思います。

これは考えてみれば当然なことで、アイゼンをつけられるような重登山靴は靴底がガチガチに固く、平地を歩くのに全く向かない仕様になっています。極端な例は雪山用のプラスチック製ブーツで、これは雪山では保温性・防水性、それにキックステップ等で無敵の強さを誇りますが、重い&ソールがカチカチで踵が固定されてしまうことから、平地ではロボット歩きになってしまうような靴です。いわゆる軽登山靴にカテゴライズされる靴でもソールは固くて靴本体の重量があることもあり、平地を軽快に歩くようには設計されていません。

f:id:pastel:20080609204554j:plain

(Koflachのプラスチックブーツ。片足で(!)1.3kg。)

さらに、装備を詰め込んだザックを背負って歩くわけで、登山行為というものがいかに垂直方向の動きに最適化された活動か…ということが分かると思います。

トレランシューズを履いて、装備を軽量化した状態である程度走りやすい平坦基調の区間を行った場合、キロ10分ペースで圧縮率50%、キロ6分ペースで圧縮率70%…という数値が得られます。山道では足場が悪かったり、ルートが明瞭でなかったり、混雑していたり、コンディションの変化への対応が必要だったり…ということで余計に時間がかかる可能性はありますが、平坦区間こそ最も楽に行程を圧縮できるボーナスステージである、ということが言えるでしょう。

f:id:pastel:20080807105501j:plain

(北アルプス・双六岳山頂から繋がる広い稜線。珍しい地形です。)

悩ましい点として、日本の登山道は傾斜のキツい区間が多く、軽快に走れる平坦基調の区間を見つけるのが難しい…というところでしょうか。稜線上で走れる区間が局所的に出てくることはありますが、走れる区間が長く続くのは稀で、長時間走り続けることができるようなルートは極めて限られていると言わざるを得ません。

個人的に、ランの延長線上の活動としてのトレイルランよりも、登山の延長線上の活動としてのスピードハイクのほうが日本の山との親和性が高いのではないかと考えていますが、それはこういった事情によるところが大きそうです。